ブータン紀行③ ~高野山宿坊の外国人観光客受け入れ体制について~

 私たちのグループは高野山櫻池院の宿坊運営について述べさせて頂きました。世界の人々にとって、この宿坊という「広く一般の方が宿泊できる寺院」は非常に珍しい様子で、聞いていただいた会議参加者にはご好評を頂けたのではないかと思っております。中には非常にInspired(触発)されたとおっしゃっていただけた方もおりました。

 実は他の仏教国の場合は通常、お寺側が受け入れるのはたとえ短期であってもあくまで修行者であり、宿泊者つまり観光客として受け入れるという事は私の承知している範囲ではインドの一部を除いて聞いたことがありません。

 もともと、この高野山宿坊における主な宿泊者の変遷はおよそ昭和までは僧侶・修行者・参拝者を中心にしていて、平成に入った近年は多くの外国人を含む観光客へと変化して来ておりますが、過去・現在においても寺側に宿泊客を明確に区別する意識は薄く、むしろ誰でも受け入れるというのが高野山の懐の深さであり、今回はその点もお話差し上げられたかと思っております。

 今回ご説明差し上げた内容は特に外国人観光客の受け入れ体制のみに焦点を絞らせて頂き、およそ以下の通りです。

 まず海外系予約サイトの活用(Booking.Com・Agoda・Trip Advisor等)による利便性の向上、及び客数の増加。実際の寺院滞在における守るべきルールやマナーの口頭・書面・張り紙にての説明。焼香や般若心経や諸真言を一緒に読誦するという参加型の朝勤行の実施、またはそれに付随する形での説明書きの配布。夕食の際のメニューやマナーの説明、そして朝食での食事(じきじ)作法の実施。更には写経や写仏・瞑想への参加も可能としており、それを全て英語で行うことができる体制を整えている旨を話しました。

 もちろん、受け入れ側(寺側)の体制の話も致しました。これらを実施するうえで欠かせない大きな問題の一つは人材であり、更にその人材が円滑に仕事をこなすために必要なコミュニケーション手段として、日頃のミーティングを大切にしている旨を伝えました。

 そして、上記の要点を法要・予約管理・翻訳通訳・食事・院内アクティビティー・清掃の6つの部門に分けて、それを常にクリティカルシンキング(批判的思考)しながら改善に努めているという具合で最終的に話をまとめさせていただきました。

 今回は時間配分の関係上、上記内容の実施による問題提起やそこへの対策についてまで話を進めることはできませんでしたが、世界の宗教聖地と呼ばれる地域は現在「観光客増加による聖地としての意義の軽薄化」を危惧しています。もちろん対応はそれぞれで異なりますが、観光客の受け入れを拒むというのは、本来人々に教えを広めようとする宗教的観点から見ても、または地域経済の活性化という観点から見ても決して勧められるべき手段ではありません。如何にその宗教的意味合いをしっかり理解して訪問していただけるかという点を、世界の人を含めて深く検討すべき時に来ているのではないかと、それが私たちのプレゼンテーションの真の意味合いでした。

 今回、ブータンを訪問させて頂いてこの会議の意義を改めて考えてみますと、これから先において高野山とブータンの密教界がより密接な関係を結べればという思いにも至りました。現在の経済発展状況・信仰感・幸福感についても日本には日本の良さがあり、ブータンにはブータンの良さがあるものなので、お互いの良い点を学び合いつつ更なる発展が望めれば良いかと感じた次第です。

 そういった意味で、会議最終日に櫻池院の住職と主催者の方が直接的お話になり、今後はより多くコンタクトを取ってまいりましょうと約束が出来たことは一つの大きな収穫であり、これがこの旅のもう一つの意味合いでもあったかと思います。

山本 海史 Kaiji Yamamoto

サラリーマンでもあり、高野山真言宗僧侶でもあり・・・現在は主に高山を拠点に活動中!

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