ブータン紀行② ~さまざまな角度からの密教~

 次はヴァジャラヤーナ・カンファレンス(密教会議)における様々な参加者の中から、私自身にとって興味深かかったいくつかの発表についてお話をしたいと思います。

 まず最初は、イギリスのロンドン大学で研究を進めている方のお話で、現在イギリスではマインドフルネスという宗教色を取り払った形での瞑想方法が急速に広まっているようです。それはストレス社会と呼ばれる現代の大きな問題の一つをどう解決していくかという点において、瞑想が一つの答えと考えられているからです。今回の発表はこのマインドフルネスをどう広めるかにおいて、まずは如何に指導をする側の人材を増やすかについてのものでした。イギリスにおいて仏教は決して一般的なものではありませんが、多くの人々は仏教自体を宗教と考えず、むしろ哲学や心理学的なものとして捉えていて、どうすれば今の社会において幸せに暮らせることが出来るかという具体的な手段を示してくれるとしています。今後は人々がそのチャンスを如何に得るかが課題とのことです。お話によれば、完全な瞑想のマスターを増やそうとするだけでなく、少しでも早く且つ一緒に歩みを進めていけるようなインストラクターを増やすことが必要とのことでした。

 次はインドのコルカタにあるアジア研究所の方のお話で、インドのベンガル地方では現代であっても実は密教の影響はしっかり残っていて、そこに住むヒンドゥー教・イスラム教の住民は、生活で困った際に密教の僧侶(ラマ僧と呼んでいました)に相談を持ちかけ、加持祈祷をしてもらうと話をしておりました。このお話は私にとっては非常に衝撃的で、異教徒であってもインド人である限りにおいては、インド文化の一つである密教の考え方には決して違和感を抱くことなく、むしろ自然に行動を起こすことが出来るようでした。これには日本における神仏習合的な考えと共通するモノを感じました。

 そして3番目は、これもインドのいわゆる伝統医学であるアーユルベーダー講師の断食についてのお話でしたが、断食というのは決して僧侶の修行の為だけに行うものではなく、一般の方の健康維持のためでもあるというものでした。特に消化という点において、胃の活動をいったん休ませるための断食は身体全体の機能を改善するためにとても重要とのことでした。ただ、この話はあくまで一般の方向けのものでしたので、具体的な方法も食事のとる量を急激になくすという事ではなく、むしろゆっくりと減らして中日を迎えるころに全く食べない日を1日作り、全体としてはおよそ一週間ということでした。

 その他、真言僧侶にとっては基本的なこととなりますが、会議において真言や陀羅尼を唱えることによる効果や功徳についての発表がいくつかありました。具体的には日本でも知られているように、実際はみ仏の教えのエッセンスが書かれているが、意味を考えずに音を重視しながら唱えることで、心身の健全・回復が得られるとしています。我々日本の僧侶にとっては遠く離れたブータンの地でも、人々はこのように全く同じ考えに基づいて日々生活・修行をされているということで改めて関心を覚えました。  

 この会議で参加者は本当に様々な角度から密教を通じての活動を発表、報告をされていました。

山本 海史 Kaiji Yamamoto

サラリーマンでもあり、高野山真言宗僧侶でもあり・・・現在は主に高山を拠点に活動中!

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